「虚偽採用疑惑のウラ」は驚きではない?2005年11月27日 17時54分32秒

私は、よく家電・カメラ量販店に行くのですが、そこで接客をしている店員さんに製品についてきいているうちに、その人は特定メーカーから派遣されている方だと途中で気付いたことがよくあります。この間も、C社のデジタルカメラについて質問して詳しく答えてくれたのですが、その人は実はS社製品を店頭販売していた人でした(首からS社のカメラを下げていたのだから、私がボーっとしていただけなんですけれど)。

今日の東京新聞を読んでいたら、世界的なパソコンメーカーのデルに採用され、展示販売をしていた社員が、残業代を払わないので要求したら、実は別の派遣会社の社員に過ぎなかったという記事が載っていました。

 ただ、Mさんと同社の雇用関係を示すような書面は一切、 渡されなかった。デルの担当者は「うちはそういうことはして ないの」と説明し、さらに「給料の支払いは第三者のD社に委 託してますから」と話した。

 一方で、Mさんにはデルの社内サイトにアクセスできるIDを

与えられた。勤務表は同サイトを通じて知らされ、同時に毎 日、業務日報も提出させられた。デル社の社名と役職名が 入った名刺も渡された。当然、正社員だと思っていた。

という、実態があったのに、残業代を払わないので問いつめると、

上司「残業代、残業代って言うなら派遣会社に言ってくれ」

 Mさん「派遣?」

 上司「だってMさんウチの会社の人じゃないよ」

 Mさん「えっ…俺、社員じゃなかったの?」

 Mさんは「デルから給与支払い業務を委託された第三者」

のはずのD社の社員で、D社からデル社に派遣されていた のだという。

と、まったく詐欺的なことをやっていたわけです。

結局、この社員のMさんは、労組に加入し団体交渉を行い、警察に職業安定法違反容疑(無許可紹介)でデル社を告訴したため、デル社と元同社員は書類送検され罰金刑が確定したそうです。

しかも、これはMさんだけの特殊例ではなくて、「Mさんと同様な手法で集められた派遣社員は百七十人にも上ったことも分かった」というから驚きです。この場合、泣き寝入りをしなかったから、最低限の権利回復はできたのですが、結局、Mさんは契約期間が切れて解雇されたそうです。

労働市場の流動化を政策的に推進してきた結果が、こういう無法の横行に帰結した面は否定できません。また現在マクロ的に進んでいる「不況からの回復」は、非正規雇用を増やして労働条件を切り下げて実現したともいえるでしょう。

だから冷静に考えれば、デルという大企業(関連会社)がそこまで直接露骨なことをやったのは「ちょっとヤバイ」ということかもしれないけれど、今の日本ではそう驚くことではないのかもしれません。

しかし、世界で同時に進行している雇用構造の変化があるとはいえ、日本で起こっている無法行為や、野放図な労働者の権利無視は、異常ではないでしょうか。

経営者や政策官僚は、労働者の権利を制度的に保障するシステムが機能しなくなれば、資本主義市場経済自体の維持が危機にさらされる教訓を肝に銘ずるべきです。また労働法や労働者の権利について、学校教育でもっと徹底して教えるべきでしょう。そして、労働組合がまともに機能する必要あると思います。

このことは、政治的な見解の「左右」等とは、無関係に追求可能なことのはずです。

ところで私は、最近、親族の一人に「パソコンを買うのだけれど、どこのがよいかな?」と問われて、自分が使ったこともないのに「安いのを優先するならデルもよいかも」と言ってしまい、本当にその人はデルを買いました。「パソコンなんて部品の集積なのだからどれでも同じ」と軽い気持ちで言ったのですが、今日の記事を読んで後悔しています。