『滝山コミューン1974』2007年05月27日 13時27分34秒

 『赤旗』と『朝日新聞』の情勢分析を読んで、私は共産党38議席を予想していたことを思い出しました。1972年12月の総選挙のことです。
 この本『滝山コミューン一九七四』は、私を1970代にタイムスリップさせてくれました。
 私は、中学生で、その年頃にありがちな傾向もあって、衆議院全選挙区の星取り予想を新聞に書き入れ、周囲の大人が「そこまでいかないよ」と反応していたのに、結果として「革新共同」も含めて共産党が40議席に達したので誇らしかったという、くだらないことを突如思い出したわけです。

 著者の原武史氏は、当時の具体的な社会状況をご自身の体験に基づいて描いていきます。当時の小学生だった著者よりは、私は少し上であったけれど、同じ衆議院選挙区に居住し、同じように「民主教育」の影響力が強かった公立義務教育を受けていた者にとっては、あまりにもリアルな出来事が本書では展開されています。

 だから、この本を読んで、多くのことを突きつけられました。あれから30年以上経て、考えなければならない多くの課題を。

 たとえば、あの頃、「憲法を暮らしに生かす」というスローガンがありました。革新自治体が簇生する状況の中で、多くの人々が「平和と民主主義」を自らの生活に結びつけて、考え行動したわけです。
   しかし、同時に、本書で描かれているように、まさにその「憲法を暮らしに生かす」運動潮流自体に中に、個を圧し殺してしまう要素が胚胎されていました。
 そのことと、安倍政権のもとで憲法の精神自体を圧し殺そうとする動きとは、直結するわけではありませんが、多くの伏流として歴史の重層の中に入り込み、現在の<危機>を形成する要因となっていることも事実だと思うのです。
 本書でも、著書は「君が代」斉唱が強制される、今の学校現場の現実を想起しながら、「民主教育」が行った同様のことがらを(こう書いてしまうと抽象的なので、この本を読んでいただくしかないのだが)、抉り出しています。

 また、自分の職場など周囲で、個人を圧し殺すようなことが起きたとき、反射的にそれに抵抗するようになることが大事だという(表現は不正確)、鶴見俊輔が強調していたことも思い出しました。この本で原武史少年は、周囲が目を輝かせて「コミューン」に飲み込まれていくのに、それに対する違和感・抵抗感を失うことはありませんでした。

   個人的にも、私は小学校からの教育の中で、「君が代」を強制的に歌わされたことはありません。その事はとても良かったと思います。同時に、本書で描かれているような学習や生活をめぐる、「班競争」の活動を(多少薄められた形だったとは思いますが)経験したことを思い出しました。そして「班長」が「班員」を選ぶという行為を私は「班長」として嬉々としてやっていたことを思いだし、非常に暗い気分になりました。
 もちろん、私の「民主教育」経験は、おそらく、あの民間教育研究団体の直接的影響力がそれほど強くなかったからか、「滝山コミューン」ほどではなかったのではないかと思います。
 だからか、小学生の時から『赤旗』を読み、その非デモクラット的要素について、それなりに言語を通して感受していたはずなのに、「平和と民主主義」潮流の中に、全体主義の要素が確固として根付いていることに自覚的になったのは、かなり後になってからでした。

 この本の帯には「2007年、今の「日本」は、1974年の日常の中から始まった。」とあります。私は、最初非常に違和感を感じましたが、いろいろ考えると、それは間違ってはいないというふうにも思います。
 つまり、「憲法を暮らしに生かす」というスローガンが無力になり陳腐になったのは、「平和と民主主義」潮流自体の中に、そうのようにしてしまう体質があったことが小さくはないし、また、現在もそれは克服はされていないと思うからです。
 軍国主義や国家主義に反対していると思っている「護憲派」の人に、特に70年代を知っている世代には読んでほしい本です。

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