『動物農場』 ことば・政治・歌2005年09月26日 23時41分45秒

川端康雄氏の『「動物農場」 ことば・政治・歌』を読みました。

みすず書房が刊行を開始した「理想の教室」というシリーズの1冊です。多くのアホな人同様、私もそうなのですが、こういうシリーズについて、「啓蒙的すぎてどうでしょうね?」みたいにくさしてみたくなりますね。みすず書房という知的な雰囲気の出版社が出しているから。でも『「教える-学ぶ」ための新シリーズ』と銘打っているわけですから啓蒙的なのは当たり前。

そんなことを言う奴に限って、高校時代に図書館などで、こういうシリーズの1冊に惹かれて、手にとってしまったりする経験があるものです。(私のこと)

さて、この本は、最初に『動物農場』の抄訳がついていて、そして、川端先生のユーモラスな講義が読めます。今の若者にウケルかどうかは、わかりませんが、レッサーパンダの風太君の話なども織り交ぜて、興味深く語られます。そして、その内容はけっして若者向けに薄められてはいません。

私は、昔まさに「全体主義ソヴィ エトの寓意小説」としてざっと目を通しただけでした。ロシア革命とスターリン体制樹立の歴史経過が、『動物農場』での動物たちの革命の顛末として、語られているのですが、誰がみても「あのことだ」と感じさせるように、直接的に喩えられた話として、あまりに露骨な気がしました。

多分、ソ連崩壊以前に私は読んだのですが、オーウェルのソ連に対する冷笑的ともいえる視線のみを強く感じたのです。「ソ連がどうしようもないのはわかっている。しかし、ブタや羊の動物による茶番として描くだけなら、どこにも希望がない。<民主的な社会(主義)>への展望もないじゃないか」という感じだったでしょうか。

それは、私がソ連スターリン主義=全体主義の恐ろしさについて十分に認識していなかったこともあったでしょうし、また、オーウェルが書いた当時のイギリス知識人の多くが、ソ連賛美の大合唱に加わっていたという事情も実感としてわからなかったということもあります。

それに加えて、私は川端氏のこの本を読んで、なるほどと思うことがたくさんありました。革命指導者としてのブタが設定されていることに関わって、実は癒し系のブタのイメージもあることが指摘されています。そこで、寓話やおとぎ話について、知りたくなりましたね。

また、実際のブタの姿、たとえば足や指についてイメージをもつことが、この物語を味わうために必要だったということも、書かれています。実はブタの足の使い方が、政治の転変を如実に示すという、オーウェルの仕掛けについて教えてくれます。

そして、最後に、「この物語作者は、同時に自分の希望の歌を歌っている」と川端氏は書いています。なぜかは、この本を読んで実感しましょう。

孤立しながらも左翼知識人のソ連迎合について批判し抜いたオーウェルの戦いは、有名な『1984年』同様によく知られています。しかし、それは単に「政治思想」だけの問題ではなくて、もう少し根深い人間としてのあり方や感じ方、表現の仕方と関わっていたのではないかなど、あれこれと考えさせられます。ともかく、時間をつくって『動物農場』を味読したいです。

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_ 1984 blog - 2005年10月11日 00時55分37秒

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